Introduction

玉川上水久我山から井の頭公園に至る沿道は沖島監督自身長年散歩道として歩いてきた道である。その道の一部が東京都が推し進める放射五号道路建設計画に伴い、壊されていくことを知った沖島監督がその風景を記録に残そうとしたのがこの映画の始まりである。
その道を歩きながら、風景が変わっていくことに対する想いを静かに語る沖島監督。東京の街について「冗談みたいな風景」と話す、あまりに簡単に変わり果てていく現代の風景に対する警鐘、しかし、沖島監督の語り口はそこに留まらず、モーリス・ド・ブラマンク谷内六郎西行法師、村上春樹横尾忠則つげ義春若桑みどり、サンドロ・ボッティチェリなど様々な作家たちへの想い、更に自身の幼少期の体験から、沿道を吹きぬける風にまで飛翔していく。
『ニュー・ジャック・アンド・ヴェティ』(1969)から『一万年、後....。』(2007)まで常に沖島作品の根底にある独特の時空間の感覚はこのドキュメント映画にも健在である。沖島監督が古い民家を「子供の目線で」みつめながら「時間飛びますよ、これ見てると僕なんかは」と語り、西行法師の話を引き合いに「まだね、時代をリセットできるんじゃないか・・・つまり人間が住む以前にまだ戻せるんじゃないかって・・・」と語るとき、「ただ、ただ」散歩をしているだけの映画のはずが、観ている者たちの時空間までが歪みはじめ、現代の風景が沖島監督の子供時代から平安時代まで縦横無尽に浮遊し始める。
監督作品6作目にして初の自作出演映画となった今作は、寡作の作家でありながら、新作を発表するごとに映画界を震撼させてきた沖島勲を知る上で欠かせない教科書のような映画なのだ!